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興徳寺の情報交流-紙上法話

第93号(復刊第18号)平成23年秋彼岸

生ましめんかな 己が命捨つとも

生ましめんかな   原子爆弾秘話      栗原貞子

こわれたビルディングの地下室の夜であった。
原子爆弾の負傷者達は
ローソク1本ない暗い地下室を
うずめていっぱいだった。
生ぐさい血の臭い、死臭、汗くさい人いきれ、うめき声。
その中から不思議な声がきこえて来た。
「赤ん坊が生まれる」と云うのだ。
この地獄の底のような地下室で今、若い女が
産気づいているのだ。
マッチ一本ないくらがりでどうしたらいいのだろう。
人々は自分の痛みを忘れて気づかった。
と、「私が産婆です。私が生ませましょう」と云ったのは
さっきまでうめいていた重傷者だ。
かくてくらがりの地獄の底で新しい生命は生まれた。
かくてあかつきを待たず産婆は血まみれのまま死んだ。
生ましめんかな
生ましめんかな
己が命捨つとも

『栗原貞子詩集』より

 

 栗原貞子(くりはらさだこ)さんは、広島市生まれの詩人。32歳で被爆し、以来2005年92歳で亡くなるまで、平和の大切さを訴えてきました。
広島市千田町の郵便局地下壕で実際に起った出来事を描いたこの詩は、原子爆弾の残酷さと、人間の強さ、やさしさ、そして命の尊さを伝えてくれます。

 さて、東日本大震災から半年が経過しようとしています。被災地の方々は、今年のお盆をどのような気持で迎えられたでしょうか?
死者1万五千人余、そして未だに、5千人が行方不明のまま・・・死亡届の提出、という苦渋の決断をされた家族も多かった、と聞きます。

 鎌倉時代を生きた日蓮聖人は、事理供養御書というお手紙の中で「いのちと申す物は、一切の財(たから)の中に第一の財なり」と述べておられます。

 いのちの大切さについては意義をとなえる人はいませんが、本当にそれを深く意識している人はどれくらいいるでしょうか? 広島・長崎に原爆が投下されて六十六年、多くの人々の命が奪われた被爆国の一員として、そして、今回の大震災を体験した者として、今こそ私たち一人ひとりが「今、本当に必要なものは何か?」さらには「何が必要でないか」を考え、まずは、小さなことから具体的に実行してみませんか。それが、先立って逝かれた命に対する供養だと考えます。


【写真提供 高瀬幹雄】